コラム

2022/06/14

「声なくして人を呼ぶ」 その心は

「声なくして人を呼ぶ」 その心は

梅雨の季節になりました。雨の季節は考えごとをするにはもってこい。ということで、今回は「PRせずにモノを売る」を考えたいと思います。


広報PRを生業にしている私が「PRせずにモノを売る」なんていうことをテーマにすると、自らの首を絞めるような感じがするかもしれませんが(笑)、果たしてどうなんでしょう。

 

こんなことを考えはじめたのは、先日、創業500年以上、350年以上にわたって皇室にお菓子を納めていた和菓子屋「川端道喜」さんの家訓、


「声なくして人を呼ぶ」

について書かれた記事を読んだことがきっかけです。つまり「宣伝はするな」ということなんだそうです。
 

「宣伝せずにモノを売る」。宣伝しなくてもモノが売れるんだったら苦労しないよ!、なんていう声も聞こえてきそうですが、どうすればそんなことが可能になるでしょうか。

考えをめぐらせているうちにもう一つ素敵な記事に出会いました。風で織るタオル、で知られるタオルブランド、IKEUCHI ORGANIC 代表の池内計司さんの「『ストーリーを売る』への僕の違和感」です*1。

IKEUCHI ORGANICさんはご存じの方も多いかとは思いますが、最大限の安心と最小限の環境負荷、すべての人を感じ、考えながらつくる、エコロジーを考えた精密さをコンセプトに、オーガニックコットンを使用したハイクオリティなタオル製品を販売されています。

記事の中で、池内さんは、最近のマーケティングで言われる、「モノを売るより、ストーリーを売れ」に違和感を感じる、一番大事なのは「モノをしっかりつくること」なはず。その結果がストーリーではないか、と語っています。

最近は、開発者の秘話などをドキュメンタリー仕立てで目にすることも増えました。面白くはあるものの、PR目的っぽいな、と思われるものも少なくありません。過剰なPRや「ストーリー」が商品の良さを曇らせてしまっていることもありそうです。
 

池内さんのメッセージを私なりに解釈すると、「PRする力を持つほどよい商品をつくっていれば、やたらPRしたり、ストーリーを無理してつくりあげずとも自ずと売れるはず」ということではないでしょうか。「よい商品をつくる努力を怠っていないか」そんな戒めも含まれていそうです。


確かに、前述の川端道喜さんは完全予約制ですが、予約待ちが出るほど人気で今なお、綿々とお商売を続けておられます。
IKEUCHI ORGANICさんも同じく、コロナ前には工場見学に自費で!ファンの方が訪れ、コロナ下に開催したオンライン工場見学は、視聴者数が300名を超え、90分間の配信の中で離脱した方はほとんどいなかったそうです*2。宣伝をしなくても商品を選び続けてくれる、ブランドを愛し続けてくれる熱烈なファンがいるなんて羨ましい限りですね。

「いいモノをつくることこそが何よりのPRになる」

これは、モノを活動に言い換えるとNGOにも同じことが言えます。かつてNGOで広報をしていた時、意義ある活動を展開しているとプレスリリースを出さなくても多くの取材を受けました。それだけで忙しかったことも! PRはそれなりに労力コストがかかる仕事ですから、PRをしなくてもよければその分、NGOであれば活動に、企業であれば商品開発などに持てる資源をまわすことができます。その方がさらに活動、商品の価値をあげることができ好循環が生まれるでしょう。


ということで、冒頭の懸念に戻ると、よい商品を販売して(NGOの場合は活動をして)PRせずとも、声を出さずとも、広報の仕事はなくなりません(笑)。それどころか、取材に対応するだけでも大忙しですし、声を出さないなりにやることはたくさんあります。

次回は、「声なくして人を呼ぶ」とサステナビリティの相性について考えてみたいと思います。

梅雨自分、皆様どうぞ気をつけてお過ごしください。

 

*1 『ストーリーを売る』への僕の違和感
*2 
IKEUCHI ORGANICが「オンライン工場見学」を実施、"ファンの気持ちを高める"原点はファンと一緒にブランドを創るという想い