コラム
2022/12/17
自然の時間にビジネスを合わせる
今、海と森に関する企業の広報のお仕事をお手伝いさせていただいています。
そこで感じることが一つ。自然時間に仕事を合わせることの尊さです。水産、林業、農業など自然を相手に仕事をしている人からすると至極当たり前のこととは思いますが、具体的なお話をうかがうとそのタイムスパンの長さに考えさせられるものがあります。
たとえば、サステナブル・シーフードをリードするイノベーターを紹介するオウンドメディア「Seafood Legacy Times」で紹介した京都・阿蘇海の漁師、村上純矢さんは、インタビューで、激減したハマグリを復活させるにはすくなくとも5年必要と語っています。5年。企業からすると中期計画を1から1.5回くらいまわすかんじでしょうか。数ヶ月、1年単位で成果を求めがちな現代のビジネスからするとなかなか時間のかかる話です。
森の場合はどうでしょう。針葉樹であれば30-40年くらい、広葉樹であれば50から100年かかるそうです。こちらは、北海道産木材をいただいた量だけ森に返すikumoriプロジェクトのコラムで紹介しました(こちら)。つまり、赤ちゃんの時に植樹したとすれば、中年になるころにその木がやっと使えるかもしれない、という感じです。もちろん、細分化すれば一年から数年単位ですることはあるのだとは思いますが、タイムスパンの長さに、ただただ圧倒されました。
自然まかせなだけに、数年後にこうなると想定したとしても、そうならない場合もあるでしょう。そう考えるとますます短期間で収益を求められる現代社会の中で、自然相手に仕事をする難しさを思いました。
ただ逆に現代のビジネスのあり方の方が自然の時間から離れすぎてしまっている、とも言えるのではないかと思いました。より早く、より多く、より安く、より良いものを...と自然時間を無視して多くを求めすぎてしまった結果、環境破壊が起こり、持続不可能といっても過言ではない状態に陥っているのが今ではないかと。
幸い、昨今、自然の時間にビジネスの方を合わせはじめようと、世界がほんの少しずつ舵を切り始めているようにも思います。今ちょうどカナダ、モントリオールでは生物多様性条約第15回締約国会議が開催されており、ビジネスと生物多様性保全が大きなテーマの一つとなっています。また、自然に関連するリスクと機会について情報開示を求める「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」も2023年には公式リリースされる予定です。まずは企業がいかに自然に依存し、恩恵を受けているのか、負荷をかけているのかを把握するところが最初の一歩だとは思いますが、その過程で自然の時間の流れに気づく企業も出てくるのではないかと期待しています。
自然の時間を蔑ろにするとしばしば生物多様性破壊が生じることはこれまで多くの事例が物語っています。今年から来年にかけて、大きく変わろうとしている世界的な変化によって「自然の時間に合わせたビジネス」がスタンダードになっていってほしいですね。