コラム
2022/01/25
湘南初 地元丹沢杉を使った木造ビル
SDGsや気候変動防止の潮流を受けて、最近、木造ビル建設のニュースを耳にすることが多くなってきました。製造時のCO2も少なく、建造物として長年使われれば、炭素貯留もでき、木が育っている間は多様な生物を育んだり、水源涵養の機能を担ったり、と多様な利点があります。
「でも、そもそも木でビルができるの?」と思う方も多いのではないでしょうか。
そこで百聞は一見にしかず。湘南初 地元丹沢杉を使った木造ビルが建てられるということで見学会に行ってきました。ビルを建設したのは、富士リアルティ(株)・湘南乃工務店。地元産材を使ったビルづくりをすすめる、地産木造ビル推進本舗の加盟店でもあります。
場所は藤沢駅から徒歩15分ほどの好立地。4F建てで1Fはお店、他は事業所を含む居住スペースとなるそうです。1階の入り口の壁には、一部、地元産材が使われており、早速木のいい香りが出迎えてくれました。出入りする度に木の香りを楽しめるなんてうらやましい......。
お話をおうかがいしたのは地産木造ビル推進本舗の市川宣広さん。木材、特に地元産材でビルを建てた場合、どんな意義があるのか、みっちり教えていただきました。
●戸建て換算 5-6棟分の木材を使用
お部屋の一つを拝見すると、見た感じは普通のワンルーム。一体どこに木が使われているかなと思ったのですが、市川さんによると柱のほとんどに使われているそうです。ビル全体に使う木材の内、2-3割が地元丹沢産の杉で残りはカナダ、または国産。地元産が2-3割と聞くと少ないと感じる方も多いかもしれませんが、それでも、戸建ての家に換算すると5-6棟分の木材に匹敵するそうです。
実はここが、地元の木材を使うポイントの一つ。世界的なウッドショックの影響で国内の木材価格も全体的に上昇しているものの、九州など大規模林業を行っている地域の木材価格は安いため、その他の地域は価格競争に負けてしまいがち。かといって、補助金に頼っていては差額を埋めるだけで、評価の低さを変えることはできません。
そこで、市川さんたちは、「安い価格に合わせるのではなく、付加価値をつけて高く売れるようなビジネスをつくろう」と木造高層住宅建設をはじめたそうです。
「地域である程度の量を使うようになれば、それぞれの地域の林業を活性化することにつながります。地域で木造ビルをつくる意義の一つはここにあります」と市川さん。ビルの場合、外からは見えない部分にも多くの木材を使用するため、価格の安いチップになりがちな見た目のよくない木材も有効活用できる機会にもなるそうです。
最近、大手建設会社なども木造ビルをつくることも増えてきましたが、国産であっても必ずしも地元産材ではありません。もちろんこれはこれで、CO2排出量の多い素材から切り替えられるわけですから意義はありますが、各地の林業の活性化への貢献はさほど期待できません。
ただ、「地域の林業を活性化する」という大義名分だけではなかなか地域の関係業界は動きません。「ここで大切になってくるものがあるんです」と市川さん。
一体何でしょう?