コラム

2022/01/27

人も森も海もハッピーに 地産木造ビル

人も森も海もハッピーに 地域産木造ビル

富士リアルティ(株)・湘南乃工務店さんが藤沢駅近くに建てた湘南初木造ビル見学会に行ってきました。地域で木造ビル建築をすすめていくために必要なものとは何か、地産木造ビル推進本舗​​の市川宣広さんにお話をうかがいました。(前編はこちら

●地域を動かすストーリー

地域で地元産材を使った木造ビルづくりをすすめるにあたって大事なものは、「ストーリー」だと市川さん。

 

たとえば今回の湘南の場合、湘南ビーチの汚れ(環境省水質判定B)を憂う湘南乃工務店さんの思いからはじまりました。「水源の森が適正に手入れされていないことが原因の一つではないか、であれば水源となる丹沢産の木を使うことで若い山々に生き返らせたい」。

 

江ノ島ビーチに注ぐ川の上流にある、森で育まれた丹沢の木を使用することで森が元気になり、川の水が浄化され、きれいな海ができる。木造ビルを普及していくことは、湘南の人たちがこよなく愛する海のためにもなる、というストーリー。

 

こうしたストーリーが、地域の人たちの心を動かし、普及の原動力になるというわけです。確かに、地域の林業、森を活性化させていく、といった場合、一部の人だけが関係して終わりがちですが、これなら関係人口も増大、賛同者が増えそうですね。

 

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写真:ドアをあけてすぐ正面にあるモニュメント。焼印は神奈川県産木材マーク。これがあることで、このビルに地元産材が使われていることを住人に常に認識してもらえるコミュニケーションポイントになる。友達や家族が来た時にもきっとここをきかっけに話が弾むはず。
 

●地元産材は虫にも強い

地域の木材を使うメリットは、林業を元気にするだけではありません。地元産木材の使用は地域の気候風土にあっているので、腐ったり、虫(シロアリ)に食べられたりしにくいことが大学の実証実験で明らかになっているそうです。食べ物は身土不二​​が大事、と言われますが、住まいも同じなんですね。

 

さらに、今回のように地元の工務店が建設すれば、「経済的な地域循環だけではなく、災害時のレジリエンスも高まります。何かがあった時にはすぐにかけつけてくれますからね」。確かに。昨今、急増する自然災害を考えるとこういう点はますます重要になりそうです。

 

 

●木造建築物あるある質問!

木造建築物にあるあるな懸念も思い切ってぶつけてみました。

 

まずは耐久性。素人のイメージながら、なんとなく鉄筋の方が長持ちしそうな気がします。「いやいや、世界最古の木造建築物、法隆寺を思い出してください」。思えば約1300年以上の年月を経て、いまだに健在。「摩擦にも強いため、仏像にもよく使われています」

 

音は? 「音楽ホールを思い出してください。もともと吸音性は高い素材で、最近では技術によってさらに高められています」

 

燃えやすいのでは? 「実は木は燃えるのに時間がかかるので人を守る素材なんです。逆に鉄骨の場合、酸や火に弱く、一定の熱が貯まると崩れてしまい、中の人は危険です」

 

高い建物は難しいのでは? 「法隆寺の五重塔の高さは約32mとマンションの10階建てに相当​​します」

 

メンテのノウハウはあるんでしょうか? 「木造は歴史の長い工法なのでメンテ方法は確立されているんです」

 

言われてみれば確かに、と思うことばかり。質問を重ねるうちに、身近なところに答えはすでにあることに気付かされました。

 

国産材、とくに地域木材はさすがにコストが高くなるのでは? 

「地元産材は平均的な国産材の1.7-1.8倍するのですが、今回の場合、地元産材を使うことによる全体コストは1-2%UPくらい。大幅なコストUPはありません」。1-2%UPなら、なんらか吸収できそうですね。

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写真:インターフォンの周辺にも地元産材が使われており、よい香りに癒されました。来訪者にもよいイメージが伝わりそう。これもいいコミュニケーションポイントですね。 

 

●カギは消費者の認識

今回のビルは投資家=オーナーが確定しており、すでに今後、何棟か建てることが決定しているそうです。背景にはやはり、昨今のSDGsへの関心の高まりがあるのだとか。「神奈川県や藤沢市など行政の注目度も高い」と市川さん。

 

いいことづくめで今後、木造ビルは急拡大しそうに思いましたが、今後の進展のカギとなるのは「消費者の理解」とのこと。不動産情報で低層の木造となると「木造アパート」と表記されることが多く(実はこのあたり、表記のルールは特にないそうです)、前述のような懸念、ネガティブなイメージを持たれがち。選ばれなければせっかくの取り組みが後退しかねません。

 

消費者の「木造」に対する認識を変えていくこと。木造ビルを選んでもらうことによって、地域の山、林業が元気になり、自然が守られ、地域でお金がまわる。「そんな好循環をつくっていきたい」。市川さんの言葉に力がこもっていました。

 

人も森も海もハッピーにする。

木造ビルがつくりだす地域社会の幸せな未来に期待感が高まりました。