コラム

2024/01/04

「水銀を過去のものに」蛍光灯の廃止に向けたメディアワークサポート

「水銀を過去のものに」蛍光灯の廃止に向けたメディアワークサポート

2027年までに蛍光灯の生産、輸出入は禁止することが決定。

 

2023年10月末から11月上旬にかけて行われた水銀に関する水俣条約第5回締約国会議で、ついに蛍光灯の廃止年が決定しました*1。今回私は、決定に至るまでの間、国際NGO、CLASPが主導するキャンペーン、CLiC(Clean Lighting Coalition、通称クリック)を通じて、日本における蛍光灯廃止に向けたメディアワークを中心とする支援を行いました。

 

水俣条約は、水銀の一次採掘から貿易、水銀添加製品や製造工程での水銀利用、大気への排出や水・土壌への放出、水銀廃棄物に至るまで、水銀が人の健康や環境に与えるリスクを低減するための包括的な規制を行い、世界中の製品や製造過程から水銀除去を目指して2013年に採択され、2023年12月現在で147か国が採択しています。

 

水銀を使用する製品は、化粧品や電池、医療器具などさまざまありますが、その一つが蛍光灯です。第四回締約国会議(2022年)でも蛍光灯の廃止が議論されたのですが、日本を含む数カ国が反対し、決定に至りませんでした。その結果、日本がCLiCのキャンペーン対象になったというわけです。

 

日本は毎年約9トン弱の水銀が今でも使われていますが、その35%を蛍光灯が占めています*2。しかし考えてみれば不思議です。蛍光灯にはLEDという代替手段があります。購入時に多少コストはかかりますが、蛍光灯に比べ寿命は約3倍、消費電力は約半分と言われています。技術大国と言われる日本がなぜ蛍光灯に固執しているのか。しかも水俣病を経験した当事国がなぜ? にわかには理解できませんでした。

 

キャンペーンとしては、プレスリリースを通じたメディアワーク、関係するNGOとの関係構築、そして、最終的には担当省庁とのエンゲージメントを行いました。担当省庁とのエンゲージメントは広報の域を超えているのでは? と思う方もおられるかもしれませんが、私は、広報の定義で述べられているように、広報とはPublic Relation、つまり、目的の達成をめざして、ステークホルダーとのよりよい関係構築を行うことだと捉えています。

 

詳しくは省略しますが、問題の根幹は、純粋にテクニカル面だということが判明したので、メディアを活用したキャンペーンから、決定権を握る省庁とのダイアログに切り替え、データに基づいた議論に移行しました(よくあるNGOのキャンペーンの準備もしていましたが...)。会議結果にはさまざまな要因が影響するので今回のアプローチだけが成功の秘訣だったわけでは決してありませんが、結果的に合意に至ることができ安堵しました。

今回は、照明に関連する技術的知識を把握していくこと、さらには、全てが英語でのコミュニケーションというハードルもありましたが、前者については、有限会社ひのでやエコライフさんがテクニカルアドバイザーとして常にインプットをしてくださったので大変助かりました。

 

個人的には、蛍光灯の廃止という世界的な決定に関われたことが大変光栄でした。関わりはじめたのは3月、会議の開催は10月と聞き、非常に短い期間でゴールに到達できるのか、常に緊張感がありましたが、多くの皆さんの助けを得て走り切ることができました。

 

キャンペーンをリードしてくれたCLiCメンバー、日本でのキャンペーン展開に協力してくれた気候ネットワークをはじめとする環境NGOの皆さん、そして、この案件にお誘いいただき、いつも鮮やかなデータドリブンアイデアを出してくれた、ひのでやエコライフ研究所の皆さんに心より感謝申し上げます。



<プレスリリース>

 

*1 生産、輸出入は禁止されますが、現在使用しているものの継続使用、在庫の販売は禁止対象ではありません。

*2 https://www.env.go.jp/chemi/tmms/keiken.html(2023年12月時点確認)



(参考)

水銀に関する水俣条約(英語)

CLASP:よりサステナブルな世界への移行をめざして、電化製品や機器の性能を改善し、気候変動の緩和をはかると共に、クリーンなエネルギーへのアクセスを拡大することをめざすNGO。世界がLEDへの移行をはかることを推進するキャンペーンThe Clean Lighting Coalition (CLiC)を運営している。1999年設立。本拠地米国。https://www.clasp.ngo/

クリーンライティング連合: CLASPがコーディネートする国際共同体で、水銀をに関する水俣条約を通じて、水銀を使用する照明を撲滅し、国際市場が水銀フリーでエネルギー消費の少ない、コストパフォーマンスの良いLED照明に移行することを目的としている。(英語サイト日本語サイト)