コラム

2021/05/30

ESG投資で変わるビジネス

ESG投資が生み出している21世紀のビジネス環境の変化とSDGs

SDGsが生まれる10年ほど前の2006年に、その後のビジネス環境を大きく変えることとなる重要な出来事がありました。

 

当時は、国連によって、2000年に国連ミレニアム開発宣言が採択され、国連ミレニアム開発目標(Millenium Development Goals/MDGs)がスタートした5年後のことですが、当時の国連事務総長コフィ・アナン氏を中心に、金融面からのアプローチで、持続可能な開発について考える取り組みが進んでいました。世界のビジネスリーダーとともに、当時の国連事務総長であったコフィ・アナンは、「国連責任投資原則(United Nations Principle of Responsible Investment/UNPRI)」をアメリカのウォール街の証券取引所で宣言しました。

 

「責任投資」の考え方は、1920年代にさかのぼりますが、要するに「善いビジネス」に投資を行うことを基本とするものです。2006年には、国連事務総長が、このUNPRIを宣言することで、ビジネスのダイナミズムを生み出す投資行動に、一定の社会的責任を持たせる試みがスタートしたのです。

 

当初は、さざ波的な取り組みではありましたが、次第に、その波は大きなものとなっていきました。UNPRIの文言の前文には、「environmental, social and corporate governance (ESG) issues」と表現された一文があり、これが、ニックネーム的な略称として「ESG」と呼ばれる用語として広がり、特に投資分野の話であることから、「ESG投資」と呼ばれるようになりました。ESG投資は、現在では、「気候危機」とも呼ばれる気候変動問題の深刻化や、一向に改善の余地が見られない、生物多様性の損失による「生物種の大量絶滅時代」への突入、労働者、女性、子どもなどの人権の侵害といった、グローバルな意味を持つ様々な問題を背景に、ビジネスのあり方に変容をもたらすものとして、つまり、グローバルにつながっている世界や人々を、より良く、サステナブルなものにしていく取り組みとして、広められています。

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ESG投資は、企業のESG評価をベースに投資先の企業を選定し、財務パフォーマンスを加味して、長期的投資を行なっていきます。では、誰がパフォーマンスを評価するのでしょうか。

評価は主として、無数にある評価会社や個人投資家自身が行います。機関投資家は、権威のある評価会社が提示する評価結果(多くは点数をつけたもの)をもとに、財務パフォーマンスとのバランスを照らし合わせて、投資先を決定しています。また、個人投資家も、企業の報告書等を分析し、投資を行っていますが、ESG投資額の4割程度を占めるとも言われるようになってきました。つまり、投資家は、自らの投資の、社会や自然環境に対するインパクトについてかなり配慮するようになってきたということです。これは、まさに、UNPRIのインパクトです。

 

投資を受ける側の企業にも変化が見られるようになりました。企業は、ビジネスを優位に展開してくためには、一つに、株主である投資家の視線に十分に敏感である必要があります。そこで、ESGを理解し、また、ESGパフォーマンスの向上を、ビジネスを通じて実現することを目指すようになりました。そして、企業は、環境、社会、コーポレート・ガバナンスを深慮し、投資家や顧客に効果的にアピールすることを目指すようになりました。

その取り組みとしては、一つには、評価会社からの高評価の結果を公表すること、もう一つには、自社の取り組みのインパクトをSDGsを用いて表現し、公表すること、といったことが挙げられます。これまで企業が公表してきたCSR報告書や環境報告書を刷新し、サステナビリティ報告書や統合報告書として、社会にアピールするようになってきています。

 

このようなESGやSDGsの取り組みは、若者世代にも意味を持つようになってきています。

 

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たとえば、就職の際の企業選びには、ESGやSDGsの取り組みを行なっているかどうかが条件になりつつあります。また、ミレニアルズと呼ばれる世代は投資を行う際、企業のサステナビリティに関する取り組みを判断基準として重点を置いているとも言われています。したがって、ESGやSDGsの取り組みは、優秀な人材を確保したい企業や若い世代の投資を呼び込みたい企業にとっては、見逃すことができないポイントと考えられます。

 

また、SDGsを活用することによって、企業の新しい取り組みのポテンシャルを見出すこともできます。17の目標のもとにまとめられている169のターゲット群は、企業がビジネスを通じて社会問題を解決する際に、参照し、活用できるツールとなりえます。どのようなところに、社会課題が存在するのかを特定し、その解決に資するビジネスとは何なのか、について検討していくことは、ビジネスの新たなチャンスを産み、そして、社会的信頼を獲得する機会となっていくものと考えられます。サステナブルなビジネスの創出によって、投資家や消費者のさらなる支持を獲得していくことにもつながるものと期待されます。

 

ESGを内包するUNPRIや、SDGs。国連を舞台に生まれてきた、これらの新しいアイディアが、これまでのビジネスのあり方やビジネス環境に変容を迫っています。そして、その変化は、企業と社会を結びつける「信頼」を育むものであると考えられます。

 

日頃からESGやSDGsに取り組んでおくことは、自然災等の社会的困難に直面した後の復興において、信頼のある企業としてビジネスを継続し、成長していく際の礎を気づくことにつながります。さらにコロナ禍である今だからこそ、投資家や消費者からさらなる信頼を獲得するチャンスとも言えます。このビジネス環境の変化にどう反応するか。みなさんの組織はどうお考えでしょうか。

(文責 SWAVE シニアアドバイザー  川本充)

 

 

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