コラム
2021/06/21
手前から取ってますか?

フードロスの半減はSDGs目標12のターゲットの一つでもありますが、なかなかすぐには解決できない難しさがあります。その一つが私たち消費者の消費行動。「商品を後ろから取る」という消費者にとっては何気ない習慣によって、スーパーなどの小売業界で多くのフードロスが発生しています。
そこをなんとか解決しようと消費者庁、農水省、環境省が「てまえどり」キャンペーンをスタートしたようです。たまたま週末、コンビニでみつけたのでパチリ。
こんなことで何か変わるの? と思われる方もおられるかもしれませんが、コープこうべが、2018年に、商品を手前から取ること、値引き商品の積極購入を呼び掛ける「てまえどり」キャンペーンを実施した結果、前年比、約15%削減することに成功。また、アンケートでは、82%がキャンペーンを「よい取り組み」と好意的のとらえ、それでも「新しいものを選びたい」という方は約9%だったそうです。
ある調査によると、食品を陳列の棚の奥から取る人はなんと88%*1にもおよぶということですから、この9割近くの消費者の行動が変われば......かなりのフードロスが防げるのではないでしょうか。
今後の進捗とスーパーなどへの広がりに期待です!
*1 食品ロス問題ジャーナリスト 井出瑠美さん調査による(対象2411人)
<参考>
てまえどりキャンペーンについてはこちら
2021/06/13
あれから28年 気候変動とSDGs

もう、28年になります
1992年に気候変動枠組条約が採択されてから、既に28年! 京都議定書の採択から、早いもので、23年の月日が経ちました。1997年当時、学生だった筆者は、そのころから、社会の様子をずっと観察し続けてきました。
気候変動枠組み条約が採択された1992年にはリオ・サミットも開催され、2002年にはヨハネスブルクサミット、2012年にはリオ+20が開催されてきました。このグローバルな潮流の始まりは、1972年のストックホルム人間環境会議に遡るので、地球環境に関するグローバルな取り組みは、かれこれ48年、半世紀近い月日が流れています。
「気候変動」というより「気候危機」
この間、何が変わったかというと、気候変動の影響が現実のもとなっている、という事実です。
台風の発生の頻度が増えたり、一時的な雨量の急激な増加、珊瑚礁が白化したり、大規模な火事等が起こったりしているだけではなく、人々が豊かに生活する機会そのものを奪われ始めています。これまでに排出され、放置されてきた温室効果ガス濃度の高まりによって引き起こされる環境変化によって、人々の人権が侵害されている事態となっています。
京都議定書の後継のパリ協定は2015年に採択されました。また、同じく2015年には、SDGsも採択され、その中には気候変動への取り組みの目標も含まれています。
そして、2021年春、大国であるアメリカ政府が「2050年に実質ゼロ」を打ち出しました。そして、日本政府も「2050年に実質ゼロの高みに挑戦する」との旨を打ち出しました。まさに、政治の流れが変わった瞬間でした。
しかし、どのような方法でそれを実現するか、については、まだ明確化されていません。ただ、この政治的約束は、気候危機を乗り越えていくには欠かせないハードルであると言えます。これを受けて、日本のビジネスの競争条件も気候危機を乗り越えるためのものへと変わっていくでしょう。
ESG投資も、投資の条件に温室効果ガス削減を掲げたケースがほとんどです。エシカル消費においても、気候危機への対処は主要なテーマの一つであると言えます。これらは、パリ協定との相乗効果が期待されています。これからビジネスを優位に展開していく条件として、ビジネスによる気候危機への着実な取り組みとその社会発信は欠かすことができないものとなってきています。
「2050年に実質ゼロ」でも心配ごとがあります
しかし、まだひとつ、心配事が残っています。気候の変動の影響は、不可逆的と考えられています。つまり、温室効果ガスの排出を今すぐにゼロにしたとしても原状回復は難しいということです。さらに2030年を超えると、気候の変動影響が大きくなり、挽回が難しくなる、と考えられています。
そのためでしょうか、米国の先進的な企業には、2030年までに実質ゼロを宣言したり、過去の排出分にまで遡って削減すると宣言するという企業が現れています。2050年までに実質ゼロという目標は科学的に正しいとされています。しかし、2030年までにできる限りのことをしなければ、「我ら共通の未来」は、気候変動による悪影響が勝る未来になりかねません。
ビジネスを通じて、気候危機への対応をはかり、利益を生むビジネスモデルが、今まさに求められていると言えます。
(SWAVE シニアアドバイザー 川本 充)
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2021/06/07
エシカル消費をチャンスに

「エシカル消費」という言葉を耳にすることも随分増えてきました。エシカル消費とは消費のインパクトを深慮して、買い物の際に、環境や人権などのサステナビリティに関する課題の解決に資するものを選択する、というものです。特にサステナビリティに敏感なミレニアルズの支持も得て、いわゆるエシカル消費市場は今急速に拡大しています。
このエシカル消費の関心を高めた一つの出来事があります。2013年に、バングラデッシュの首都ダッカで起きた、ラナプラザ商業ビルの崩壊事故です。ファスト・フードならぬ、ファスト・ファッションと呼ばれる、安価で、使い捨ができる衣類でビジネスを行うファンッション企業が、バングラデッシュに工場を置き、商品を生産していました。過酷な労働条件で働く人々の人権は軽視され、さらには、工場そのものが突然崩壊、1000人以上もの人命が失われました。
この事故を機に、先進国の人々は、商品がどのような経緯で自分の手元に届いたのか、なぜ安価に買えるのか、考えるようになりました。自分の消費行動がどんな社会的インパクトを持つのか、遠く離れた国の人々を幸せにしているのか、といったグローバルなサステナビリティ問題への関心が急速に高まる機会となったのです。
このような企業が抱えるグローバルな人権問題に対処すべく、国連は、2011年「ビジネスと人権に関する指導原則」を採択し、国連加盟国に対応を求めました。「ビジネスと人権」の問題といえば、今、中国のウイグル問題に注目が集まっています。中国がウイグルの人たちに対し、強制労働を強いたり、ジェノサイド(集団殺害)と言えるような行為をしているとの指摘から、海外の政府が憂慮し、ウイグルのコットンを使用する製品を受け入れない、という政治問題が生じています。その対象には日本の企業も含まれています。
コットン(綿花)自体は、脱プラスチックの観点からも重要な素材です(化繊の場合、洗濯をすると、マイクロファイバーが排水に混ざり、新しいタイプの海洋汚染問題を生じます)。また、オーガニック農法の場合、労働者の健康や環境の保全にも貢献でき、さらには現地の人々の雇用等にもつながります。
しかしながら、人権侵害という社会面の問題が生じてしまうと、いくら環境面でよい要素があっても、政治的問題にまでつながってしまいます。ESG投資家がこのような状況を放置することはありません。従って、その様な企業の株価は下がっていく傾向を示しているのが現状です。消費者も同様です。エシカルな消費者は、人権侵害につながるようなそのような商品を購入することを回避します。いわゆるボイコットです。このように、人権に配慮しない企業にとっては、投資家、消費者の両者からの圧力がかかります。逆にいうと配慮している企業は、生き残っていくということになります。
持続可能な開発に関する教育が義務教育や大学教育において実践され、また、地球環境問題の悪影響が顕著となってきている現実から、グリーンコンシューマー、エシカルコンシューマーと呼ばれる、エシカル消費を志向する消費者は着実に増えてきています。10年前には、あまり耳にすることのなかった言葉ですが、もう、10年が経過し、今では、トレンディな言葉となりました。
このトレンドに敏感に反応し、取り組んでいる企業は、順調に収益を上げていると言われています。ESG・SDGsで高く評価されることで、投資を呼び込み、消費者の支持を得ることができます。また、経済的価値と社会的価値の好循環を生み出すことができ、サステナブルな社会を構築することに貢献できます。日常の衣食住を振り返ると、企業が果たせる役割は無限大と言えるのではないでしょうか。
SWAVE シニアアドバイザー 川本 充
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2021/06/03
エシカル消費を広げるヒント

Yahoo! Japanが運営する、人・社会、地域、環境にやさしいエシカル商品を応援するお買い物メディア「エールマーケット」での全20回の連載「わかる、えらぶ、エシカル」特集が終わりました!(3回以降筆者が元原稿を提供)
CO2削減、ごみ削減につながるもの、といったわかりやすいテーマから、一生もの、災害対策、伝統工芸品といった、一見エシカルとの関係性がすぐにはわかりづらいものまで、多様なテーマを切り口にそれぞれのテーマの背景にある問題、どういう商品選びをすれば解決できるのか、さらには具体的にどんな商品があるのかを紹介しました。
改めて書くとなると調べることがたくさんあり、まるでドリルのように毎回書いていました(笑)。17のテーマを書いてみて気づいたことは、エシカル消費と一言でいっても具体的な商品でみていくと、さまざまな見方によってエシカルな視点につながることがある、ということでした。
たとえば災害対策商品。災害対策になる商品とエシカルのつながりってあるだろうか、とはじめは思ったのですが、調べていくうちに、実は災害対策用品は、ミニマムでサステナブルな暮らしを考えるヒントが隠されていることに気づきました(詳しくはこちら)。
郷土料理もしかり。地元のものを食べる、ということはエシカルとの親和性が高そうだと思いつつも、いざ言葉にするとなると案外難しいもの。調べたり考えを深めるうちに、郷土料理に親しむことは地元の自然や伝統文化を知り、守っていくことにつながるという大切な視点に出会いました(詳しくはこちら)。
伝統工芸についてはエシカルの文脈で語られることも比較的多いテーマですが、執筆にあたり改めて調べてみると「元祖サーキュラーエコノミーデザイン」であることを発見。やはり先人に学ぶことは多いと感じました(詳しくはこちら)。
エシカル消費、というとどしても認証ラベルがついていないとだめなのでは?、高いのでは?、身の回りにないのでは? と思いがちですが、「長くつかえるかどうか」「無駄を生み出さないかどうか」「輸送エネルギーが多くないかどうか」といった視点で見直すと案外すでに身の回りに該当するものがあることに気づきます。
もちろん、環境や社会に負荷がかかっている部分はないか、確認改善をしていく必要はありますが、一消費者としてはもっと多様な視点を持てれば、エシカルな消費、ライフスタイルを実践する可能性は広がるように思います。
エシカル消費の認知度もずいぶん高まってきました。このムーブメントを定着させるには、なぜエシカルである必要があるのか、背景にある問題は何か、商品のどこがエシカルなのか、こんな問いをもとに売り手と買い手のコミュニケーションを続けていくことが大切だと思います。今回の連載がその手がかりになればこんなにうれしいことはありません。
ぜひエールマーケットさんでのお買い物がてらご一読ください(笑)。自分買いしたくなる!エシカルで素敵な商品がたくさんありますよ。
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2021/05/30
ESG投資で変わるビジネス

SDGsが生まれる10年ほど前の2006年に、その後のビジネス環境を大きく変えることとなる重要な出来事がありました。
当時は、国連によって、2000年に国連ミレニアム開発宣言が採択され、国連ミレニアム開発目標(Millenium Development Goals/MDGs)がスタートした5年後のことですが、当時の国連事務総長コフィ・アナン氏を中心に、金融面からのアプローチで、持続可能な開発について考える取り組みが進んでいました。世界のビジネスリーダーとともに、当時の国連事務総長であったコフィ・アナンは、「国連責任投資原則(United Nations Principle of Responsible Investment/UNPRI)」をアメリカのウォール街の証券取引所で宣言しました。
「責任投資」の考え方は、1920年代にさかのぼりますが、要するに「善いビジネス」に投資を行うことを基本とするものです。2006年には、国連事務総長が、このUNPRIを宣言することで、ビジネスのダイナミズムを生み出す投資行動に、一定の社会的責任を持たせる試みがスタートしたのです。
当初は、さざ波的な取り組みではありましたが、次第に、その波は大きなものとなっていきました。UNPRIの文言の前文には、「environmental, social and corporate governance (ESG) issues」と表現された一文があり、これが、ニックネーム的な略称として「ESG」と呼ばれる用語として広がり、特に投資分野の話であることから、「ESG投資」と呼ばれるようになりました。ESG投資は、現在では、「気候危機」とも呼ばれる気候変動問題の深刻化や、一向に改善の余地が見られない、生物多様性の損失による「生物種の大量絶滅時代」への突入、労働者、女性、子どもなどの人権の侵害といった、グローバルな意味を持つ様々な問題を背景に、ビジネスのあり方に変容をもたらすものとして、つまり、グローバルにつながっている世界や人々を、より良く、サステナブルなものにしていく取り組みとして、広められています。
ESG投資は、企業のESG評価をベースに投資先の企業を選定し、財務パフォーマンスを加味して、長期的投資を行なっていきます。では、誰がパフォーマンスを評価するのでしょうか。
評価は主として、無数にある評価会社や個人投資家自身が行います。機関投資家は、権威のある評価会社が提示する評価結果(多くは点数をつけたもの)をもとに、財務パフォーマンスとのバランスを照らし合わせて、投資先を決定しています。また、個人投資家も、企業の報告書等を分析し、投資を行っていますが、ESG投資額の4割程度を占めるとも言われるようになってきました。つまり、投資家は、自らの投資の、社会や自然環境に対するインパクトについてかなり配慮するようになってきたということです。これは、まさに、UNPRIのインパクトです。
投資を受ける側の企業にも変化が見られるようになりました。企業は、ビジネスを優位に展開してくためには、一つに、株主である投資家の視線に十分に敏感である必要があります。そこで、ESGを理解し、また、ESGパフォーマンスの向上を、ビジネスを通じて実現することを目指すようになりました。そして、企業は、環境、社会、コーポレート・ガバナンスを深慮し、投資家や顧客に効果的にアピールすることを目指すようになりました。
その取り組みとしては、一つには、評価会社からの高評価の結果を公表すること、もう一つには、自社の取り組みのインパクトをSDGsを用いて表現し、公表すること、といったことが挙げられます。これまで企業が公表してきたCSR報告書や環境報告書を刷新し、サステナビリティ報告書や統合報告書として、社会にアピールするようになってきています。
このようなESGやSDGsの取り組みは、若者世代にも意味を持つようになってきています。
たとえば、就職の際の企業選びには、ESGやSDGsの取り組みを行なっているかどうかが条件になりつつあります。また、ミレニアルズと呼ばれる世代は投資を行う際、企業のサステナビリティに関する取り組みを判断基準として重点を置いているとも言われています。したがって、ESGやSDGsの取り組みは、優秀な人材を確保したい企業や若い世代の投資を呼び込みたい企業にとっては、見逃すことができないポイントと考えられます。
また、SDGsを活用することによって、企業の新しい取り組みのポテンシャルを見出すこともできます。17の目標のもとにまとめられている169のターゲット群は、企業がビジネスを通じて社会問題を解決する際に、参照し、活用できるツールとなりえます。どのようなところに、社会課題が存在するのかを特定し、その解決に資するビジネスとは何なのか、について検討していくことは、ビジネスの新たなチャンスを産み、そして、社会的信頼を獲得する機会となっていくものと考えられます。サステナブルなビジネスの創出によって、投資家や消費者のさらなる支持を獲得していくことにもつながるものと期待されます。
ESGを内包するUNPRIや、SDGs。国連を舞台に生まれてきた、これらの新しいアイディアが、これまでのビジネスのあり方やビジネス環境に変容を迫っています。そして、その変化は、企業と社会を結びつける「信頼」を育むものであると考えられます。
日頃からESGやSDGsに取り組んでおくことは、自然災等の社会的困難に直面した後の復興において、信頼のある企業としてビジネスを継続し、成長していく際の礎を気づくことにつながります。さらにコロナ禍である今だからこそ、投資家や消費者からさらなる信頼を獲得するチャンスとも言えます。このビジネス環境の変化にどう反応するか。みなさんの組織はどうお考えでしょうか。
(文責 SWAVE シニアアドバイザー 川本充)
SDGsに取り組んでみたい方へ>SDGsビギナーのためのスタートアッププログラム(6月までスタート価格にて受付中/最大2件)
<SDGsコラム>
・No.1 今こそSDGs 達成のカギは