コラム

2025/03/19

アブラヤシの実ってカタッ!

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あー、これだ....。広大な土地に広がるアブラヤシのプランテーション。ボルネオ島に着陸する前に上空からみた景色に、これまで何度も見てきた写真を思い出しました。定規で線を引いたようにまっすぐ伸びる道。整然と並ぶアブラヤシ。

 

パーム油の問題は何十年も聞いてきたものの、現地は一体どんな感じなんだろう?、そこに暮らしている人はどんな思いでいるんだろう? そんな思いを胸に、今回、ウータン森と生活を考える会が主催するボルネオ島エコツアーに参加してきました。

到着して早速向かったのは、滞在先の村に隣接するアブラヤシ農園。現場でみると大人の背丈の2、3倍はありそう。

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実際にアブラヤシの実を落としてみようということでやってみたのですが......これがうんともすんとも動かない! 「なんて固いんだ!」そこで、まずは実の手前にある葉を落とそうということで茎の部分に刃を入れてみるもののこれまた強い繊維質で刃が入りません。やっているうちに腕がワナワナ......。全く使いものにならない自分を痛感しました。

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今度は落ちた実を抱えてみることにチャレンジ。一つの実の重さはだいたい15kgほど。米袋でイメージすると検討がつきやすいかもしれません。腰を落として、よいしょっ!と持ち上げる感じでした。

プランテーションで働く場合、実を落とす方は1日85個、落としたものを拾って運ぶ方は150個が基本のノルマだそう。月の収入は日本円にして3-4万円ということなので、インドネシアの平均的な金額ではある模様。今回訪れた場所では、農薬、除草剤の散布もあるのですが、マスクや長靴の支給もあり、ケガをした場合の労災もあるということでちょっとほっとしました。

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直径30センチ強ぐらい。実の先はトゲトゲしていて素手で触ると痛い。

 

パーム油プランテーションは、環境破壊に加え、低賃金、長時間労働、児童労働(今回、訪問した場所では児童労働ない、ということでした)など労働問題が指摘され続けているだけに、今回、実際の作業をさせていただいたのは貴重な経験になりました。

 

今回、もう一つ学んだことがありました。

それはRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証を取得している森の状態です。考えてみれば当たり前なのですが、RSPO認証を取得しているからといって、多様な動植物が生息しているわけではありません。見た目は延々とアブラヤシが続いており、オランウータンがいるような森とは全く違います。恥ずかしながら、認証を得たプランテーションは生態系も豊かなんだろう、という勝手な妄想をしてしまっていたので...実際に現場に行ってみてはっとしました。

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RSPO認証を取得した森を歩く。約20年ほどの木だという。植えてから3年で収穫できる。

もちろん、現状では環境・社会面の負荷を減らしていくために、認証取得を進め、パーム油が使われている商品を選ぶ場合は認証油を使ったものを選ぶことが大事だと思います。ただ、認証は万能ではない、という点もしっかりと覚えておくべきだと痛感しました。

 

次回は、森を再生する取り組みをお伝えします!

 

 

2025/01/05

世界報道写真展2024京都

世界報道写真展2024京都

あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、昨年末、「世界報道写真展2024京都」に行ってきました。

これは、世界報道写真財団(World Press Photo Foundation)が開催するWorld Press Photo Contest(世界報道写真コンテスト)の入賞作品を展示するもので毎年日本で開催されてきましたが、2021年を最後に休止していました。今回、京都新聞の松村和彦さんの連載、「700万人時代-認知症とともに生きる」の写真シリーズが2024年のコンテストで入賞したことをきっかけに復活しました。

 

冒頭の写真はドイツ。白い雨合羽に身を包んだ人々の列。一体何のための列だろうと思って解説を読むと、ドイツ、ラインラント地方で炭鉱開発に反対するデモ隊の人々との説明書きが。環境先進国ドイツで炭鉱開発? と目を疑いましたが、実は70年代から露天掘り炭鉱の用地を確保するために森林破壊がなされてきたとのこと。デモ隊は森や村の一部を占拠し、破壊される予定だった6つの村の内、5つの村、森の一部を守ることに成功したと解説されていました。


炭鉱開発は開発地域の自然を破壊するだけではなく、取り出した石炭を燃やせば当然CO2が排出され、気候変動が加速します。つまりドイツだけの問題ではありません。その意味で、遠く離れたドイツで、地域、さらには世界のことを思って戦ってくれている人たちがいることを知って胸が熱くなりました。


この他にも気候変動の影響による森林火災や干ばつ、ガザをはじめとする戦争、地震などの災害に苦しむ人々、そうした困難に果敢に立ち向かう人々。レンズが捉えた世界の「今」に、深い悲しみと共感、そして問題に立ち向かい続けることの大切さ、勇気を感じさせられました。


2025年も微力ではありますが、世界が少しでもよりよい方向に向かうよう、コミュニケーションを通じて尽力していきたいと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

*
「世界報道写真展2024京都」は写真の撮影が認められており、会場で撮影した写真を使用しております。この写真の撮影はDaniel Chatardさん

 

 

 

 

 

 

 

 

2024/11/28

グリーン車のおしぼりに思うこと

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最近、早朝、もしくは夜遅に新幹線に乗るときはときどき、グリーン車に乗るようになりました。
たかが椅子、されど椅子。降りた後の疲れが全然違います。昔は九州から東京まで18きっぷで行ってもへっちゃらだったのに。寄る年波には勝てません。

それはさておき、乗るといつももやっとすることがあります。それは、乗車すると配られるこのおしぼり。これはこれで手を拭いたり、夏は汗を拭いたりするのに便利なのですが、気になるのはおしぼりが入っている袋の広告。

「男のエステ ダンディハウス」。文字通り、男性向けのエステの広告です。

確かに、グリーン車はざっと見る限り、男性が多いと思います。あくまで見かけ判断ですが、中でもバリバリ仕事をしてそれなりの地位についていそうな方が多いです。その意味では、グリーン車の客層≒男性で自分の容姿にお金をかけられる層ということで、ターゲティングとしてはぴったりなのでしょう。

でもなんかもやっとします。

グリーン車に乗るのは、経済的、社会的にある程度成功してエステにお金をかけられる男性、と決めつけているこの感じ。ジェンダー平等ランキングがG7中、最低を記録し続ける日本の現実がダダ漏れです*。

最近は化粧品やファッションなどの分野では、色や形、ネーミングや仕様など、性別に限らず使えるように工夫された「ジェンダーフリー」「ジェンダーレス」マーケティングも増えてきました。よく考えたらなんでこれまで別々だったんだっけ?と思うものも少なくありません。こうしたマーケティングは特にZ世代に好感を得ているとききます。

もしZ世代がこのグリーン車のおしぼりの広告をみたら、どう思うでしょうか? Z世代はまだグリーン車には乗らないから構わない?
その感覚とマーケティングの積み重ねが、ジェンダーランキング120位前後をうろうろする日本につながっているのではないでしょうか。

たかが椅子、されど椅子。たかが広告、されど広告です。
小さな積み重ねが「バイアス」につながる、逆に言えば、社会を変える力になると捉えるべきです。

JR東海さん、乗り心地だけではなく、社会的影響をも考えた、センスあるマーケティングを期待しています。


*2024年版「ジェンダーギャップ報告書」(世界経済フォーラム(WEF))によると、日本は146カ国中、118位で主要7カ国(G7)では最下位。

 

 

 

 

2024/10/24

年の半分は「ほぼ夏」

年の半分は「ほぼ夏」

食欲の秋、読書の秋、芸術の秋。秋はほんとに忙しいですね。
気温も下がって落ち着いていろいろ楽しみたい秋なのに、10月24日、本日お昼の京都の気温は25度。ほぼ、夏日(25度以上)です。

「温暖化だねえ」と世間話に終わらせている場合ではありません。

EUの気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は2024年がまたもや史上最高に暑かった夏になるだろうと予測。京都に限定すれば、今年、1年のうち45%が夏日になったとのこと。つまり、年の半分はほぼ夏になったということです。

農業への影響はおろか、生態系への影響を考えるとまさに「気候危機」と言っていい状況です。

では「ファッションの秋」ということで、気候変動にファッション業界はどう対応しているのでしょうか。最近一つ記事を書きました。

それによると「サプライチェーンを含めた脱炭素化の情報開示は3分の1以下」。情報を出さなければ始まらないのに、この状況です。

情報開示=サステナブルでは決してありませんが、サステナビリティを促進する上でまずやるべき「最初の一歩」です。

ファッションブランドが特に脱炭素化に関する情報を開示すべき理由はもう一つあります。それは、服の製造から廃棄までのプロセスのうち、CO2の9割が発生するのは製造段階だからです。

つまり、消費者サイドでできることがないわけではありませんが、ファッションブランドがCO2削減に取り組まなければ大半を占めるCO2は削減できない、ということです。

詳しくはぜひこちらの記事をご一読ください。

まもなく11月には29回目の国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)がアゼルバイジャン共和国で開催されます。国家レベルでも、企業レベルでも、踏み込んだアクションが取られることを期待して止みません。

 

(写真)家の近くの公園のくぬぎ。小さい頃からどんぐりが大好きで見つけるとどうしても拾ってしまう。とくにくぬぎは私にとって王様👑的な存在。

 

 

 

参考
世界の平均気温 8月は去年に並んで1940年以降で最高に

京都市「霜降」に夏日の年間記録を更新 1年の45%「夏」四季の概念崩壊

 

 

2024/07/02

まずは126円越え!

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「エシカル消費を実践したいけれども、お金がかかる」。

確かに、スーパーで売られているオーガニック野菜は普通の野菜より数十円単位で高い。お気に入りのMSC認証ちくわも数十円高い。服や雑貨、家具など大型のものになればなおさらだ。一つひとつは数十円、数百円でも積み重なると数千円、数万単位で違いがでてくる。

かといって選ばないのも気がひける。悩ましい...

でも、冒頭の数字を見てほしい。

これは、公正・公平な貿易によって取引されたフェアトレード認証製品の日本人一人あたりの年間購入額(2021年)。フェアトレード認証のチョコレートやコーヒー、紅茶なら数百円はするので、つまりそんなにプレッシャーを感じなくても、
年に1つ買うだけで簡単に平均金額を上回ることができる。


株式会社自然エネルギー市民ファンドの会社案内にさわかみ投信株式会社 取締役会長の澤上篤人さんがこんな趣旨のメッセージを寄せていた。

日本の預貯金898兆円(2019年6月末、日銀速報。古いパンフレットなのでデータの古さはご容赦を)。このうちわずか1%を寄付に回すだけで日本経済は1.7%成長、3%なら5%成長になる。

商品の購入ではなく、寄付の話ではあるものの、大金を使わずとも、案外少ない金額で社会の変化を起こすことは可能と言えそうだ。


「寄付が貧しい方々や音楽家、スポーツ選手にまわれば、今日は腹いっぱい食べよう、楽譜を買おう、スポーツシューズを新調しようの消費が発生する。それが経済活動を活発化させるわけだ」


エシカル消費も同じこと。経済の活性化のみならず、年にわずか数百円のチョコレートを1枚買うだけで、そのシグナルは販売側、流通側、生産者に伝わり、エシカル市場の拡大につながっていくだろう。


ちなみに、日本のファトレード認証製品市場規模は196億円(2022年)。前年比24%増と過去最大の伸びになった。背景としては企業がコーヒーなどを積極的に使用したり、ノベルティにも活用するようになったことなどがあげられている。

毎日、いつもといわずとも、たまに、小さな金額でもいいのでエシカル消費を続けよう。小さなくとも地道なアクションが企業のアクションとあいまって、全体を変えていく力になると信じて。




【参考】
・【最新フェアトレード市場規模発表】国内フェアトレード市場規模196億円、前年比124%と急拡大

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