コラム
2023/01/13
冷蔵庫扉の開閉ぐらい 乗り越えて

新しい年がはじまって早2週間。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
「今年はどんなことをしようか」まだまだみなさんやる気に満ちている時期かと思いますが(笑)、そんなやる気をインスパイアしてくれそうな素敵なニュースをみつけました。
コンビニ大手のローソンが冷蔵ショーケースに扉をつける取り組みを強化する、というものです。理由は省エネ、CO2削減のためです。記事によると約1割減るとのこと。すでに各店舗取り組みを進めているそうですが、今後はさらにサンドイッチやサラダのコーナーにも拡充するとのこと。いいニュースです。
私が注目したのはその後。
いい取り組みとはいえ、扉をつけると売上は減少する傾向があるそうです。でも、竹増貞信社長は、「時代も変わっており、何度でもチャレンジする。(お客様に対し)『扉を開け閉めしてくださったおかげでCO2がXX減らせました』といったコミュニケーションをしたい」とコメントされています。
これです! 私が思っているのは。つまり、CO2の削減はもうどうにかしてやらなくてはいけないというのは決まっているんです。売上売上って言ってる間に、大気中の温室効果ガスは最高値を記録し続け、平均気温は産業革命前の気温を1.2度上回り*1、毎年どころか毎月地球のどこかで自然災害が発生し、総額約2700億ドル(約35兆7700億円)にものぼり、自然関連の年間保険損害額は毎年1000億ドルを超える異常状態が常態化*2 する時代になっています(あえて長い一文)。コンビニで売るものだって、調達が難しくなったり、値段をあげざるを得なくなったり、そんな状況も起きつつあります。
冷蔵庫の扉の開け閉めぐらい、企業が乗り越えられなくてどうする!です。お客様のせいにしている場合ではなく、お客様と一緒に乗り越える方策を考えるべきです。そこでまさに「コミュニケーション」の出番だと思います。
先日、雑貨家具ブランド、イケアが「お客様を信じて、コミュニケーションをはかり、お客様と共に、サステナブルな暮らしへのシフトにチャレンジしていくことを大切にしている」ことについてご紹介しましたが、同じように、コミュニケーションを本気ではかることによって、社会課題を乗り越えようとしている企業が現れていることにうれしく思いました。
今年も、サステナビリティを少しでも前進させたいという情熱を持つ企業やNGOの皆さんと共に「コミュニケーション」を通じて、その思いの実現に貢献していきたいと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします!
そして、ローソンの冷蔵庫扉に注目していきたいと思います(笑)。
▼記事の詳細はこちら
冷蔵ショーケース、増える扉 ローソン、冷気漏れ防ぎ省エネ(朝日新聞、2023.1.13)
*1 欧州コペルニクス気候変動サービス調べ
*2 ドイツ ミュンヘン再保険調べ
2022/12/26
SDGsに配慮した内製木材の選び方

「北海道の森からいただいた広葉樹を、いただいた量だけ森にお返しする」内装材ブランドikumori様のウェブサイトでホワイトペーパー「SDGsに配慮した森の豊かさを育む木製内装材の選び方」の作成をご支援いたしました。
ホワイトペーパーは、最近注目のマーケティング手法で、お客さまの立場で商品サービスの分析をご紹介するお役立ち資料を意味します。新規顧客の開拓だけではなく、顧客育成にも役立つツールとして活用されています。
今回はSDGs達成に貢献する内装木材を探している方をペルソナに、SDGsの解説から近年の動向、内装木材選びがSDGsとどう関係するのかを解説しつつ、選び方をご紹介する内容を作成しました。 最近はSDGsに関連するホワイトペーパーも多く見られるようになりましたが、ターゲットレベルまで分析されていないもの、国内外の動向を踏まえていないものも見受けられます。SDGsは目標レベルの把握では、具体性に欠け、分析が曖昧になってしまいます。また、サステナビリティ分野の動向は常に変化しており、できる限り、最新の動向を押さえることが重要です。
そこで今回は、ikumoriブランドをターゲットレベルでSDGs分析を行い、単なるPRではない、SDGsの文脈に合わせたikumoriブランドのご紹介をめざしました。 分析を行う分、時間はかかりますが、グリーンウォッシュの防止をはかった的確な広報ができるだけでなく、SDGsに沿った事業戦略づくり、目標、KPI設定までできるようになります。また、将来的な事業展開の可能性も見出せます。
サステナビリティは息の長い取り組みがほとんどです。だからこそ、しっかりとした分析と堅実なPRが重要です。今回のホワイトペーパーのリリースを機に、よいご縁が生まれることを期待しています。
2022/12/17
自然の時間にビジネスを合わせる

今、海と森に関する企業の広報のお仕事をお手伝いさせていただいています。
そこで感じることが一つ。自然時間に仕事を合わせることの尊さです。水産、林業、農業など自然を相手に仕事をしている人からすると至極当たり前のこととは思いますが、具体的なお話をうかがうとそのタイムスパンの長さに考えさせられるものがあります。
たとえば、サステナブル・シーフードをリードするイノベーターを紹介するオウンドメディア「Seafood Legacy Times」で紹介した京都・阿蘇海の漁師、村上純矢さんは、インタビューで、激減したハマグリを復活させるにはすくなくとも5年必要と語っています。5年。企業からすると中期計画を1から1.5回くらいまわすかんじでしょうか。数ヶ月、1年単位で成果を求めがちな現代のビジネスからするとなかなか時間のかかる話です。
森の場合はどうでしょう。針葉樹であれば30-40年くらい、広葉樹であれば50から100年かかるそうです。こちらは、北海道産木材をいただいた量だけ森に返すikumoriプロジェクトのコラムで紹介しました(こちら)。つまり、赤ちゃんの時に植樹したとすれば、中年になるころにその木がやっと使えるかもしれない、という感じです。もちろん、細分化すれば一年から数年単位ですることはあるのだとは思いますが、タイムスパンの長さに、ただただ圧倒されました。
自然まかせなだけに、数年後にこうなると想定したとしても、そうならない場合もあるでしょう。そう考えるとますます短期間で収益を求められる現代社会の中で、自然相手に仕事をする難しさを思いました。
ただ逆に現代のビジネスのあり方の方が自然の時間から離れすぎてしまっている、とも言えるのではないかと思いました。より早く、より多く、より安く、より良いものを...と自然時間を無視して多くを求めすぎてしまった結果、環境破壊が起こり、持続不可能といっても過言ではない状態に陥っているのが今ではないかと。
幸い、昨今、自然の時間にビジネスの方を合わせはじめようと、世界がほんの少しずつ舵を切り始めているようにも思います。今ちょうどカナダ、モントリオールでは生物多様性条約第15回締約国会議が開催されており、ビジネスと生物多様性保全が大きなテーマの一つとなっています。また、自然に関連するリスクと機会について情報開示を求める「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」も2023年には公式リリースされる予定です。まずは企業がいかに自然に依存し、恩恵を受けているのか、負荷をかけているのかを把握するところが最初の一歩だとは思いますが、その過程で自然の時間の流れに気づく企業も出てくるのではないかと期待しています。
自然の時間を蔑ろにするとしばしば生物多様性破壊が生じることはこれまで多くの事例が物語っています。今年から来年にかけて、大きく変わろうとしている世界的な変化によって「自然の時間に合わせたビジネス」がスタンダードになっていってほしいですね。
2022/11/23
サステナビリティに熱心なIKEA その心は

先日、スウェーデン発祥のインテリア・家具ブランド「IKEA」に行ってきました。
サステナビリティに熱心なことでも知られるIKEA。実際、店舗でどうお客様とコミュニケーションを取っているのでしょうか。
店内を早速見てみると......商品の説明と共に、環境に配慮した点やその製品を使うことによって環境負荷がどう減らせるのかといった説明がフロアの至るところで見受けられました。全て読んでいると時間がないほどの情報量。ちょうど訪問した時はカフェでサステナブル・シーフードフェアを展開しており、「海の資源状況を守るためにも認証製品を選ぼう」といった趣旨の店内放送も流れていました。
実際にお客様がどれくらい説明を読んでいるのか、理解・共感しているのか、行動に変化が起きているのか、気になるところですが、生活の楽しさを確保しながらもサステナブルな暮らしにシフトしてもらおうという熱意が伝わってきました。
この熱意は一体どこからくるのか。そう思っていた矢先、とてもいい記事をみつけました(こちら)。イケア・ジャパン株式会社CEO兼CSOのペトラ・ファーレさんのインタビューです。記事によると、お客様を信じて、コミュニケーションをはかり、お客様と共に、サステナブルな暮らしへのシフトにチャレンジしていくことを大切にしていることが述べられています。
これだ!と思いました。
日本の企業からはまだまだ「消費者の意識が低いから売れない」といった声が企業から聞かれます。私はこうした発言を耳にする度に違和感を感じていました。そもそも、全ての人は消費者ですし、消費者と企業の持っている情報量、資金も含めたさまざまな力は圧倒的に違うわけですから、サステナブルな方向へとシフトするよう、取り組む責任はまず企業にはあるはずです。
でも、ご紹介した記事を読んで私が腑に落ちていなかった本当のポイントに気づきました。つまり「消費者の意識が低いから売れない」という発言の奥底には「お客様=消費者を信じていない」という前提があり、そのことに落胆していたのだと。
木製のボックスの値札を裏返すと... 端材などを活用している説明が書かれていました。
お客様=消費者は本当に意識が低いのでしょうか?
意識の低さが原因で行動につながっていないのでしょうか?
ファーレさんが言われるように、お客様を信頼すれば、企業としてできることはもっとありそうです。これからも、「消費者を信頼する」ことを大前提に、コミュニケーションワークを通じて、もっと消費者=お客様と共にサステナブルな方向へとシフトしていくチャレンジを私自身も続けていきたいと思いました。
2022/11/01
グリーンウォッシュを防ぐなら

TV番組でも報道されるなどグリーンウォッシュが話題になっています。グリーンウォッシュとは、「ごまかす」を意味する「ホワイトウォッシュ(White wash)」をもじったもので「あたかも環境に配慮しているかのように見せかける表示」のことを意味します。
たとえば、単純に「リサイクル商品」とうたっていても、実際使われているリサイクル素材はわずかだったり、「エコ商品」と表示されていても、販売会社がNPOに寄付をしているだけで、商品そのものは何の環境配慮もしていなかったり...といった具合です。
私はNPO法人環境市民のスタッフをしていた2011年頃にこの問題のチームメンバーの一人でした。約10年経ち、日本でもようやく、という思いと、それでもまだ欧米とは大きくかけ離れている日本の取り組み状況には落胆せざるを得ません。社会全体としての対応を引き続き期待しつつ、今日は、日々コミュニケーションの現場にいるからこそ思う、グリーンウォッシュ防止の秘訣を一つ、共有したいと思います。
それは一担当者だけではなく、組織全体でグリーンウォッシュの問題に対する認識を共有し、防止のための体制を構築することです。
例えば、商品を企画担当者はその製品の環境配慮ポイントを把握していたとしても、売上を強化したい宣伝部がついオーバーな表現をしてしまい、商品担当者のチェックをすり抜けて表に出てしまったり、営業担当者も広告担当者も、環境問題に関する理解が浅く、不十分な表現のまま表に出てしまったり...。企業にいる方であれば想像に難くない状況ではないでしょうか。
それぞれの担当者からすれば「そんなつもりはなかった」、トップに至っては「知らなかった」と言いたくなるところでしょうが、グリーンウォッシュは故意過失は考慮されません。情報を受け取る消費者はその表示が故意か過失かなんて知り得ませんからね。
グリーンウォッシュの防止の取り組みをされていた、米国のUL 環境事業開発部長(2016年当時)のスコット・ケース氏は
”Greenwash harms future generations (グリーンウォッシュは将来世代に害を及ぼす)."
とその問題の深さを指摘していました。担当者からすれば「その時だけ」の表示のつもりかもしれませんが、ごまかしのツケは将来世代におよびます。そこまでの意識を持ってサステナビリティの訴求をしなくてはいけないということです。
ただ、だからといって、何も言わなくなってしまうのは最もよくありません。
「下手に取り組みを伝えると批判を受けるから言わない」「たいしたことをしているわけではないから表には出さない」「まだ一定レベルまで達していないからウェブには掲載しない」...こうしたコメントを何度聞いたことでしょう。
現在地を伝えることは、消費者、社会に対する企業の責任です。目標地点を示した上での現在地を正直に、正確に伝えましょう。最近では、大手であれば特に評価機関がコーポレートサイトを確認し、格付けをするケースも増えており、情報を公開していない場合は評価対象外(低評価)になることもあります。中小であれば関係ないとは言い切れません。サプライチェーンマネジメントが強化される中、情報の非公開、情報不足はチャンスの喪失、場合によっては「取り組まない」ことによるリスクを生み出すこともあります。
グリーンウォッシュの防止は単なる表示の問題にとどまりません。経営のあり方、事業戦略が真に環境保全に重点を置いているかどうかをはかるバロメーターになります。
ぜひ関心を持った方はこれを機会に組織全体で取り組んでみてくださいね!
【参考】グリーンウォッシュの防止に関心のある方はNPO法人環境市民のウェブサイトへ